人とは違う年賀状

子供の頃、両親と一緒に年賀状を書くのが年末の恒例だった。両親は写真などを印刷して作っていたが、私はまっさらなハガキに毎年何らかの絵を描きこんでいた。好きな動物やキャラクターを描いて、皆にすごいと言われたかったのである。しかし、私にはあまり絵心がなかった。いつからか自分の絵の下手さが嫌になり、市販のスタンプを何個か打ち込んでごまかすようになった。

 何歳の時のことだったか、良いアイデアを思い付いた。筆ペンを使おうと思ったのである。その少し前、通っていた硬筆教室でその存在を知った。私は教室での勉強のおかげで、鉛筆やボールペンで書く文字は同年代の中でもだいぶきれいな方だったが、学校の書写の授業では筆をうまく使えず、べたべたした文字しか書けずにいた。しかし筆ペンを使えば、あんなに使いこなせなかった墨が、自分の手で思いのまま調節できるのである。技術的なことを言えばもちろん未熟でしかなかったが、それでも十分なほど、私は感動を得たのである。

 この筆ペンを使って絵を描こうと考えた。何かの授業で、墨で描かれた絵を見たことがあり、迫力があってかっこいいなあと思っていた。筆ペンなら、自分でもあのような絵が描けるんじゃないか。上手く描けなくても、墨の迫力で誤魔化しきれるんじゃないだろうか。

 そんな訳で年賀状作りに取り組むことになった。確か翌年が辰年で、龍を描こうと考えた。墨とも相性が良さそうだ。しかしどう描けば良いのか。その時、新たなアイデアが閃いた。龍は長い体に角やら髭やら腕やらがくっついている。ならば、一本長い線を引いて、そこに特徴を付け足していけばそれらしくなるんじゃないか。よし、と思い、ハガキの白い面の上から下にかけて、うねうねっと線を引いた。ひらがなの「ひ」が崩れたような感じである。そこに、龍の体の部分を色々書き込んでいった。

 物凄く弱そうな龍が出来上がった。

 龍だというのは分かる。ただ全然かっこよくない。これじゃダメだと、体の線を太くしてみると、今度はくっついている腕などが弱々しくなってしまった。じゃあそれも太くしようとすると、体のバランスが悪くなり、不格好になってしまった。その後も色々もがいてはみたが、頑張りすぎて年賀状が墨でベタベタになってしまった。

 しょうがないので、龍から染み出したオーラみたいなものだとむりやり納得し、次のハガキに取り組んだ。何個か描いている内に、ようやくなかなかの出来のものを作れるようになった。よしよしと思いながらも、龍の出来の差はどうしようと考えた。結局、当時特に仲が良かった友達に一番の龍を送り、その他はごちゃ混ぜに住所を書いて送った。

 年賀状を書かなくなってしばらく経つが、あの時間は結構楽しかったなあと思う。今は年賀状の案を練る機会もないが、メール等の文章でウケを狙って考え込んでしまうあたり、自分はその時とあまり変わってないような気もする。